春畑セロリのワガママ部屋

ボンビー鉄道の旅、さすらいレポ

昨年は宇宙をテーマに曲を書いたのだけれど、もう少しだけ身近な事象にフォーカスしたい気持ちが胸の奥底にありました。そのためにも、この惑星から何か新鮮な刺激をもらいたい! それには、旅しかないでしょ、さすらいのお気楽者としては……!

本音を言えば、南極とかパナマ運河とかカスピ海とかアイスランドとかを彷徨いたいところだけれど、なにしろ決定的にお小遣い不足なので、せめて、国内の自然豊かなところへ旅したいと思っていました。

で、いつ、どこへ、どうやって? ずっと考えていたけど、山登りはしんどいし第一単身には危険だし、かといって観光地は気が進まないしお金かかるし、と思ううちに、いつの間にかローカル鉄道の旅に食指が動きはじめました。自然あり、人の想いあり、暮らしあり、事前情報あり、しかも極貧の節約旅行ができそう。時期は寒くもなく暑くもなく、春休みやゴールデンウィークを避け、雨期も避け……となると、5月中旬が最適じゃないか。

ということで、2024年5月13日〜18日、関東甲信越をめぐる鉄ソロ旅に出かけてきました。特急や指定席はいっさい使わず、路頭に迷わないように経路と宿だけアタリをつけ、わずかな荷物とスマホだけを持って、いざ出発。

 

◆<1日目>

都内〜京葉線〜内房線〜小湊鐵道〜いすみ鉄道〜外房線〜東金線〜総武本線〜銚子電鉄〜犬吠

内房線の五井から小湊鐵道で上総中野へ。よく似ているけど、右が小湊鐵道、左がこれから乗るいすみ鉄道の車両。

雨期を避けたはずなのに、この日は大雨で、どちらの線もお客さんはまばら(時には車掌さんと二人だけ)。そしてどちらの線でも、窓口のオバチャンや改札のオジチャン方に仲良くしてもらい、お昼を仕入れがてら途中下車散歩も楽しんだよ。「先発は途中駅止まりだけど、乗り継ぎの次発を待つ間、駅員に外に出してもらいなさいよ」とか、「次の列車が着くのは向こうのホームだけど、雨がひどいから待合室でのんびりしてていいよ。列車が隣駅を出たら教えてあげるから」とか、ね! これだけで、旅の行く手の幸運を予感しました。

大原からはJR外房線を上総一ノ宮で乗り換えて大網、さらに東金線で成東へ。そして総武本線へと乗り継ぐと、ついに銚子駅到着。この先、ICカードが使えないのはローカル私鉄あるあるなので、ホームの端っこでSuicaをピッとさせて、銚子電鉄へと乗り換えです。

今日のラスト路線。ホームも車内掲示もアナウンスも、なかなかギャグの効いた銚子電鉄を楽しんで、ようやく第1日の目的地、犬吠駅にたどり着きました〜。

 

◆<2日目>

犬吠埼〜外川〜銚子電鉄〜銚子〜成田線〜香取〜鹿島線〜鹿島臨海鉄道〜水戸〜常磐線〜日立

第2日は犬吠埼散歩からスタート。灯台の風景も印象的ですが、岬を飾る地層や打ち寄せる波を砕く岩の群れ、謎のトンネルも興味をそそります。人の営みも捨てがたいが、自然の原風景も見たかった今回の旅。次への扉がひとつ開いたような気がしたのでした。

犬吠埼から海沿いの道路を南へ30分ほど歩いて、一旦、銚子電鉄の南端駅、外川へ。漁港の町らしい風情にあふれています。

 

外川から再び銚子電鉄を楽しんで銚子に戻り、利根川べりを散策した後は、成田線で香取へ。香取神宮をかたどったと思われる駅舎は無人で、Suicaタッチ機はあるものの、まだこのままJRに乗り継ぐのだから、ここはタッチなしでしょ、危ない危ない……と思いながら鹿島線に乗って、利根川鉄橋を渡り鹿島神宮駅へ。

すると、ホームの対面に鹿島臨海鉄道の車両がスタンバイ中で、すみやかに乗り換え。と思いきや……、ここ鹿島神宮駅は、まだJR鹿島線の途中駅で、次の鹿島サッカースタジアム駅が両線の正式な接続駅だそうです。え、ここは乗っちゃっていいの? Suicaはどうなるの? 次の駅でピッて、できるの? と思ったら、なんと、鹿島サッカースタジアム駅は試合開催日以外は全列車通過なのだそうで……。おいおい? 違う会社同士の接続駅なのに「通過」って、そんなことある? じゃ、私のSuicaの運命は?

案の定、車内アナウンスで、「当鹿島臨海鉄道では、ICカードはご使用になれませんのでご了承ください」と。ほらぁ。どうすんの? どうやって精算するの? 他のお客さんたち、どうしてる? と思ったら、みーんな、涼しい顔で現金や切符や定期券で降りていく…。おーい、私のような旅人はおらんのかいっ!

そうこうするうちに、電車は無事に終着駅水戸に到着。ワンマンの運転士さんに、「あのぉ、銚子からSuicaで乗ったんですけど、精算できますか?」と訊いたら、「あっ、大丈夫ですよ。鹿島臨海鉄道分を現金でお支払いくだされば、証明書を差し上げます。それを水戸駅の窓口に見せて、Suicaの処理をしてもらってください。窓口に寄らずに勝手に改札を通っちゃうと、銚子から総武線〜東京〜常磐線経由の大回りの額で落とされちゃいますから、絶対に自分でSuicaピッってしないでね」……うーむ。ローカル線の旅、注意力と洞察力が必要かも。

というわけで、いろいろありましたが、あとは水戸から日立へ常磐線で移動。噂に聞く日立駅。なかなか素敵です。

 

◆<3日目>

夜明けの日立〜常磐線〜水戸線〜両毛線〜桐生〜わたらせ渓谷鉄道〜間藤〜日光市営バス〜東武日光

4時半の日の出に合わせて、めったにしない早起き。日立駅構内へとお散歩です。地平に顔を出した朝の太陽。ガラス張りの無人の駅もよいけれど、大学生たちや若いカップルが集って朝日を眺めている図もいいですね。

昨日売り切れていた駅前ローソンのチャーシューマヨネーズおにぎりが、今朝もまたゲットできず、すごすごとホテルに戻って、今日の旅へと仕切り直し。

常磐線で水戸へ戻り、水戸線の車窓を堪能。沿線の下館? 来たことある! すごく若い頃に書いたこどもミュージカルの公演で小学校にきた! そうそう、茨城か栃木か埼玉か群馬かわからないあたり!! などと思いながら小山着。両毛線に乗り継ぐと、岩舟? 来たことある! CDのレコーディングでホールに来た! 佐野も足利も来た! と思いながら桐生に着く頃には、もうお昼だ。

桐生からは終点の間藤(まとう)まで2時間弱のわたらせ渓谷鉄道の旅。桐生駅の乗り換えホームでSuicaをピッとして、ぬかりなくJRからの下車処理をし(学習してるからね)、あとは渡良瀬の渓流と緑のアンサンブルを満喫。

 

ほどなく車掌さんが検札に来たから、「桐生から間藤までの切符ください」と言うと、「えっと……」と、うろたえているので、よく見ると、まだまだ新米の若い乗務員さん。指導役の先輩が付いてきていて、「桐生駅のホームでSuica出場されたのですね。その前のJRはどちらからご乗車でしたか?」と手慣れた処理。ずっとうろたえたままの新人さんが、あまりにも初々しいので、後で彼が、再び先輩と連れだって記念グッズを売りに来たときには、キーホルダーを買っちゃいましたよぉ。「今日の車両はどの色?」なんてお話弾んじゃってねww

 

列車は山奥の終着駅、間藤に到着。ここからはバスしか移動手段がないので、この旅唯一のバス乗車区間。小さなバスで東照宮付近をかすめながら東武日光駅に着いたときには、なんだか馴染みの地に舞い戻った気分でした。生き物を取材に、何回も来たものね、日光。

 

◆<4日目>

日光〜東武日光線〜下今市〜東武鬼怒川線〜鬼怒川温泉〜野岩鉄道〜会津鉄道〜会津若松〜只見線〜只見

日光からチョチョイと乗り継いで鬼怒川温泉駅。ここからは快速AIZUマウントエクスプレスで、東武から野岩鉄道、会津鉄道、JRと、鉄道会社を弾丸のように貫いて一路会津若松へ。といっても、ほぼ各駅停車なので、前方座席でのんびり。

鉄橋や、空の映る田圃や、都会にはない駅名や、阿賀川の眺めを楽しんでいるうちに、ふと、気づく。線路の上に電線がない?! ふつう、電車って、上に電線があるのでは? 電線がないからこそ、高さギリギリの狭いトンネルも抜けていくし、空がくっきり丸見えで心地よいですよね。

  

 

駅のオバチャンに見送られているうちに、列車はやがて思い出のある会津若松へ。ここで折り返して、いよいよ午後は只見線だ!

 

只見川のいくつもの絶景スポットで車掌さんが紹介アナウンスをしてくれます。鉄橋を渡るたびにみんなが左右の窓に釘付け。そして20分停車のホームで車掌さんとオシャベリ。「この電車、屋根の上に電線ないんですね」「あっ、これ電車じゃないですからね〜」「え、電車じゃない?」「だって電気で走ってないですから」「あ、…ひょっとしてエンジンなの? 燃料は?」「軽油」「あー、ディーゼルなのかぁ〜!」電車の形をしている車両が、全部『電車』なわけじゃない……と、初めて知ったのであったwww。たしかにホームのアナウンスは「まもなく電車が参ります」とは言ってない!

 

平成23年の豪雨以来、不通区間があった只見線は、関係者や地元のみなさんの尽力の甲斐あって、2年前にようやく復旧、全線運転再開しました。只見線を守って盛り上げていこうという気運があちこちにあふれています。田畑で働く人も、小学校の子どもたちも、電車が、もとい、列車が通ったら全力で手を振ってくれます(往復ともに1日たった3本ですから)。

3時間半あまりの「気動車」の旅で、今日の目的地・只見線の途中駅、只見に到着。見通し抜群の駅周辺。のんびりと小さなスーパーまで只見川べりを散策。通りかかった銭湯に入ってみたかったけど、ひなびた旅館のお風呂にも入りたいからなぁ。

 

◆<5日目>

只見〜只見線〜小出〜上越線〜越後川口〜飯山線〜しなの鉄道北しなの線〜長野〜信越本線〜しなの鉄道〜小諸

部屋が揺れるくらい突風が吹き荒れた只見の朝。家族経営旅館のオジチャンに、昨日みつけられなかった「転車台」の位置を教えてもらい、「駅に行くのはまだ早いっしょ。もうちょっとゆっくりしていけば〜?」というオバチャンの声に送られて旅館を出発。なにしろ小さいリュックひとつの旅なので、全荷物持っていても身軽に散歩できます。

 

山並みも木々も田畑も道も、そして線路も…、胸のうちをみずみずしく満たしてくれています。静かな大地の呼吸と、熱い思い出のざわめきと、ささやかな創作への息吹で……。

 

車窓に展開する初夏の暮らしを見ながら、一路只見線を終着の小出へ。さらに上越線で越後川口へ。この日はとにかく翌朝小海線に乗るために、飯山線で長野、さらにしなの鉄道で小諸までたどりつくのが目標なのだけど、乗り継ぎがなかなか難しく30分待ち、1時間半待ち。よっしゃ、越後川口で一旦下車し、近所のご飯屋さんでランチしよう!

と思ったのだけど、改札を出てみると……何もない。キオスクもコンビニも何もない。しかたなく、たったひとりの駅員さんにお店情報を聞くと、「昼は、何もないだろなぁ」との返事。これだからね、ローカル線の旅はSuicaや商店に頼っちゃいかん、とにかく小銭と千円札と栄養補給のゼリーを必ず持っていなくては! という思いを噛みしめていたら、駅員さんが、「そこの道をね、ズーーーーっとズーーーーーっとひたすら行くと、スーパーがあるからさ、そこで弁当買って戻って、この待合室で食べなよ」とのこと。さらにその後も、「そろそろ切符買ってホームに行ったほうがいいかもよ。乗り継ぎのお客でホームに1コしかないベンチ埋まっちゃうからさ」などと親切なご提案。で、もちろんSuicaは使えないから券売機で切符を買うのだけど、これが長野どころか、1,690円の途中駅までしか買えない。オジチャンが窓口で売ってくれるシステムはないそうで、「向こうで精算してもらって〜」とのこと。「向こう」て……。

毎年、長野県の北部のほうには仕事&放浪で来ているから、飯山線で南下してくると車窓も馴染み深い信濃川(千曲川)の風景。駅名も、十日町、戸狩野沢温泉、飯山など耳に馴染みだし、自転車のまま乗車してくるチームもいて、なんだか山あいから少しだけ広々としたところに出た開放感があります。

飯山線から小諸までは、JRとしなの鉄道の営業区間が錯綜しているのだけど、長野で乗り換えるだけで別会社間もすいすい行けちゃう。だからこそなのか、小諸駅の窓口で切符を精算しようとしたら、「越後川口からどこまで買ったの?」と質問されてしまい、そんなん知らんがな。「とにかく券売機で買える1,690円のところまで」と言ったら、にわかにざわめく乗務員室。「どこかなぁ、飯山じゃ近すぎるし、豊野ともちがうし、あっっ、わかりました! 替佐(かえさ)、替佐ですね!」って、そんな必死で駅名特定しなくたって差額で計算すればいいじゃん……と思いながらも、「ん? 替佐? どこかで聞いたことある、そうだ、きっとそこまで買ったんです!」と無責任に言い放った……ものの、この駅名を聞いたことがあるのは、切符の行き先だからではなく、唱歌『ふるさと』の作詩者・高野辰之の故郷の記念館最寄り駅だからなのでした。

さっぱりした小諸駅の真ん前にたたずむ小諸ロイヤルホテルは、今回の旅の最後の宿。なかなかのベテラン感漂う超リーズナブルな宿です。狭いフロントにはオバチャンがひとり。「近くにお手頃なレストランとかありますか?」と聞いたら、「線路沿いの道から左に曲がってズーーーーっと真〜っ直ぐ行くとスーパーがありますよ」って、今日どこかで聞いたようなセリフ。「あ、スーパーで買って、持ち込んでいいですか?」「いいですよ〜。お弁当いろいろあるからね〜。ツルヤですからね〜」「えっ、長野県では有名なあのツルヤ?」「そう、小諸は発祥の地ですよ〜」。いや、小諸のツルヤ、めっちゃ立派できれいなスーパーマーケットでした!

 

◆<6日目>

小諸〜小海線〜甲斐小泉〜小淵沢〜中央本線〜高尾〜京王線〜都内

最終日は、JRで最も標高の高い野辺山駅を含む標高高いベスト9の9駅や、日本一海から遠い海瀬駅、そして八ヶ岳を含むさわやかな山並みの車窓を楽しみながら、小海線を南下。終着の小淵沢のひとつ手前の甲斐小泉駅では、昨年、北杜市に移住したユウコが待っていてくれました。

  

旅の最後は友のマイカーでちょっとだけリッチに。かつて貴重なインスピレーションをいただいた平山郁夫シルクロード美術館でティータイム、アメリカンなレストランでランチ、そして星野リゾートでアフタヌーン・コーヒー。こうして、ひとり旅に華を添えてくれる気の置けない友がいるのも、幸せな人生ですね。

  

でも夕暮れの小淵沢からは、またもや初志貫徹の鈍行旅。中央本線各駅停車で都内まで戻ってきました。思えば、上総○○から始まって、下総○○、常陸○○、会津○○、越後○○、信濃○○、甲斐○○と、通過した駅名からも、諸国を巡った感満載です。

 

私は、何をこの旅からもらったのでしょう。

 ……いえ、本当の旅はこれから……なのです。

 

 

で、オマケ。この踏切はどこ? どこのローカル線?

答えは、ウチのオフィスから歩いて55歩のところにある、井の頭線の踏切。渋谷からすぐとは思えない、なかなかのローカル感でしょ? でも、空に電線があるので、「電車」だということが自明ですね、あはは。